平瀬ダムは高さ73mの重力式コンクリートダムです。
古くから台風による洪水被害に何度も見舞われている錦川流域ですが、一方で、近年は渇水に悩まされることも多くなっています。平瀬ダムは、そうした地域の治水対策、そして、発電などを目的に建設されました。
周囲は美しい自然と貴重な河川生物が生息する場所で、生息環境保全のため、渇水時にもダム下流に必要な水が流れるように設計されています。
また、ダム直下の発電所では、ダムの放流水を利用して最大出力1,100KWのクリーンな電気エネルギーを発電しています。
このダムの完成により、失われた集落の記憶がダム内に残されました。
ひとつは、集落の生活を支えた木谷原橋のモニュメント、もうひとつはダム湖の名称です。「猿飛湖」は、集落の景勝地「猿飛の石庭」に由来します。
場 所 : 山口県岩国市錦町広瀬
アクセス : HIROSE FOOD BASEから錦川線沿いを車で約8分。
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平瀬ダムのダム湖を望む一角に、赤い橋のモニュメントが展示されています。
これは、平瀬ダムに沈んだ集落に架かっていた、木谷原橋の一部を移設したものです。
赤いアーチが印象的な木谷原橋は、上弦と下弦がそれぞれ弓(ボウ)と弦(ストリング)のような形状であることから、ボウストリングトラスと呼ばれる構造形式です。1890年代に70連ほど輸入されたドイツのハーコート社製ひとつで、この形状は現在ではほとんど採用されていません。
集落には1952年に移設されました。
老朽化が激しく、保存、移設が難しいことからダムの貯水を機会に撤去されましたが、日本に数橋しか残っていない貴重な橋であること、集落のシンボルであったことが考慮され、モニュメントとして残されることになりました。
「平瀬ダム記念モニュメント」石碑より引用
かつての木谷原橋の様子です。遠くからもよく目立つフォルムです。
平瀬ダム上流に位置する猿飛の石庭は、錦川と木谷川の合流地点から約500m続く景勝地で、永い年月をかけて水流に削られた岩肌が、庭園のように見えることからその名がつけられました。
この辺りは川筋が大きく弧を描いているため比較的流れが穏やかで、集落の子供たちの格好の遊び場になっていたそうです。
残念ながら、現在は立ち入り禁止となっていますので、中に入ることはできません。
この360度画像は木谷川から100mほど下流の地点で撮影したものです。まるで切り出した石を階段状に積み上げているようですが、これは全て一枚の岩でできています。
なお、猿渡橋から遠景を望めます。
猿飛の石庭の全景です。なお、平瀬ダムのダム湖は、一般公募によって猿飛湖と名づけられました。
木谷原地区の景勝地は沈んでしまいましたが、その名は後世に受け継がれていきます。